虹色空間から~

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秋山香乃著 『氏真、寂たり』

【作品紹介】

 収録作品:「氏真、寂たり」

 出版社:静岡新聞社

 初版発行:2019年9月20日

 物語:

     「東海道一の弓取り」評された今川義元の嫡男として生まれた氏真。

  幼き頃より立派すぎる父に及ばないと常に思い日々を過ごしていた。

  桶狭間の戦いで義元が討ち死にし、今川家を背負うも弱体化がすすむ。

  何とか名門今川家を存続させようと、屈辱にまみれ奮闘していくうちに、

  自分の生き方を見つけていく。

 

【感想】

 今川氏真というと、2017年の大河ドラマ「直虎」で尾上松也が演じていた氏真像が思い浮かびました。武士というより貴族の雰囲気で、戦いより蹴鞠を好み、名家を潰しただけ息子的なイメージです。しかし、ドラマでは直虎に立ちはだかる悪役。そのままには受け取っていませんでしたが、やはり、凡庸な人ではと思っていました。

しかし、この小説で氏真の行った戦いの数々、家が滅亡した後も徳川家康から利用価値ありと認められ江戸時代まで生きぬくその手腕を読み進めるうちに、イメージががらりと変わりました。やはり立派すぎる父・武田信玄を持った武田勝頼は最後は自害して果てる結末とは対照的です。どうしても家を滅亡させたという悪いイメージが先行しますが、今では歴史上に名を連ねる戦国武将の中で桶狭間という大ダメージを受けてから8年間も家を存続させたのは単なる凡庸な人に出来る事ではないなと感じました。

仲睦まじい夫婦であったこと、幼少期を共に過ごした家康との関係など、氏真の人間味あふれるエピソードが満載であり、教養も武力も兼ね備え、本当に魅力あふれる氏真がいます。この一冊で大変興味ある人物になりました。