虹色空間から~

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浅田次郎著「一路 上下」

本の紹介
収録作品:一路
出版社:中央公論新社
初版発行:2013年2月22日
内容:父の不慮の死により家督を相続した小野寺一路。交代寄合と称される禄高も格式も高い旗本である蒔坂家の御供頭として江戸への参勤を差配することになった。父からお役目について何も教えられていなかった一路は二百年以上前に記された家伝の「行軍録」を唯一の手がかりに、古式に則った行列を仕立て、田名部から中仙道を江戸に向け出発するが、道中には様々な困難が待ち受けていた。
 
感想
何と言っても魅力的なのは蒔坂家の殿様、蒔坂左京大夫です。この殿様が登場すると雰囲気が変わります。奇行も数々あり、周囲にはうけつと思われている殿様ですが、どうして、どうして、色々と考えています。お褒めの言葉をかければ後々が大変と無表情を装い「大儀である」「祝着である」とその場に合わせ短い言葉で声かけをしたり、不平不満があっても慣例を重んじたり、殿様という仕事も楽ではないことを教えてくれます。加えて、様々な顔を見せてくれる蒔坂左京大夫のあふれる魅力に圧倒されました。
そして、参勤の道中。様々な決まりごとがあり、宿泊場所はもちろん江戸への到着日が遅れることは一大事。お家の存亡をかけた大仕事だったことが、小野寺一路を通して描かれます。道中に出会う人々も個性的で、魅力あふれています。
しかし、参勤が行われている時期は幕末。桜田門外の変がすでに起こった後、将軍は徳川家茂の時代の話です。幕末の緊迫感とは全く関係がないかのようなのほほんとした、参勤道中。幕末の旗本は危機感が薄く、全体的にのほほんとしていたのかもしれません。物語は江戸に到着するところで幕を閉じますが、その後の明治維新の混乱を蒔坂左京大夫がどのように乗り切ったのか、興味深いです。きっと面白い話になりそうな気がしますが…。