虹色空間から~

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伊吹有希著『彼方の友へ』

【作品紹介】
収録作品:彼方の友へ
出版社:実業之日本社
初版発行:2017年11月25日
物語:佐倉波津子(本名ハツ)は高等学校を卒業後、西洋音楽私塾を開くマダムの家で通いの内弟子として家事手伝いをしている。波津子の楽しみは少女雑誌『乙女の友』を読むこと。しかし、貧しい波津子には雑誌を買う余裕はなく、幼馴染が仕事場から拾ってくる処分雑誌の切れ端をもらっていた。ある日、マダムの家を解雇された波津子に『乙女の友』編集部で働く機会が訪れる。戦争に突き進む時代の中で、「友へ、最上のものをー。」を合言葉に雑誌作りに奮闘する人々がいた。




【感想】
「彼方の友」とは誰なのか、これは謎解きだなぁと思って読み始めましたが、それは少女雑誌『乙女の友』が読者の事を「友」と呼んでいて、読者全てを指していることが直ぐにわかりました。その「友」のために戦時中という時代の狭間であっても、希望をもてるような雑誌を送り出そうとする熱意、それを取り巻く戦争という闇を抱えたミステリー性、波津子のとても純粋な気持ちが絶妙に絡み合い、とても乙女な小説でした。小さいころよく読んでいた漫画雑誌はこんな気持ちで作られていたのかな、など思ったりして、あの頃に毎月の発売日を指折り楽しみにしていたトキメキが蘇りました。
波津子の成長物語でもあって、最初は狂言回しのような役割だったのが、少しずつ立派な物語の主人公として輪郭をあらわし、気がつけばどっしりと中心に座っていて、様々な見どころが満載の小説です。読み終えても、いろいろな謎が浮かんできますが、それも余韻として楽しめました。